辺境領主の看護記録3話リライト版

2026/09/30

ラノベ

t f B! P L
夜。
対象の部屋に入る。
寝ている。
接敵する。
対象の喉にナイフを構える。
「FIRE…」
聞き慣れない単語だった。
だが、それだけだ。
私はナイフを突き出す。

「…!」
背筋が粟立つ。
廊下…?
…執事か。
確実に殺せる。
だが、生還できるかは別問題だ。
情報が足りない。
特にあの執事。
私は静かにナイフを収めた。
今夜ではない。
私は窓から消えた。

……
…
――じー
私は今対象を眺め続けている。
「…?」
(ふわぁぁぁ…っ!)だめっ!つ、つぶれる…っ!私の目がつぶれる…っ!はぁはぁ…っ。顔面を中心として眼部に大量のエネルギー反応を検知。総員配備につけっ…!
さぁっ!もう一度よ。

――じー
「……?」
(ダメ!みんな早く撤…)チュドーン!ノルナA隊員っ!(…私、この戦争から帰ったら…2次小説書いて、グフフって…する…ん…だ…。ガクッ)ノルナA隊員ーっ!
その後も対象のすさまじい眼部ビームにより各所で甚大な被害が起こる。ノルナB隊員!ノルナCDE隊員まで…っ!カエルの合唱のように(2次小説書いて、グフフ…)が輪唱される。

…顔、イケメン過ぎる。何あれ。ゲームのキャラやん。

シリウ。

「これからお願いします」「ドドドド…、…ド、ドモデス。リョウシュ…、デス」しか会話してない。
…いや別に話せるよ?話そうと思えば。そりゃあね。元29歳ですもの。これまで数多くの同人小説を読み込んできてる。話せるよ?うん全然。男の人との会話の盛り上げ方なら脳内で100通りはもう履修済み。

私、会話できる女ですよ?
…ただ顔面!顔面の圧が強すぎる。
ロドが言うには護衛のために来てくれた人、らしい。

そう、ロド。

「お父様に書いた手紙っていつ届く?」
「ここから王都まで往復で2週間は最低でもかかるかと」
「…そっか。でも明日には返ってくるかもしれないよね?」
「難しいかと存じますが、全くない事もないと存じます」
「じゃあ明日も聞く」
「そう仰ると思いました」
父さんからの手紙は返ってこない。私は今日も領主の仕事をしている。と言ってもハンコ部屋でハンコを押す仕事だ。執務室らしいけど私はハンコ部屋と呼んでる。

何十枚目かの書類。
――はい、ハンコ、ポンっと(今日は夕ご飯イモ以外だったらいいなー)
また次のやつ。
――はい、ハンコ、ポンっと(イモばっかだからなー)
「お嬢様」
――はい、ハンコ、ポンっと(いや別にイモ嫌いなわけじゃないんだけど)
「お嬢様」
――はい、ハンコ、ポンっと(そろそろなー、お肉とか)
「お嬢様。」
――はい、ハン…コ…

……
…
ロドの手だった。
「ゴメンナサイ‼」「ゴメンナサイ‼」「ゴメンナサイ‼」「ゴメンナサ…

……
…
視察に駆り出された。
ロドと、斜め後ろにはシリウ。
…風が気持ちいい。頭冷やせって事だよね、…たぶん。

すれ違う人の腕に切り傷。足にも切り傷、少し化膿している。顔に擦り傷。
どれも汚れたまま乾いていて肌の色も悪い。やっぱり早く王都に戻らないと。手紙が早く届きますように。

道で子供が鬼ごっこをしている。
一番後ろの女の子がこけた。膝から血がにじむ。少し間を置いて、泣き出した。
母親らしい人が駆け寄り、布で膝を拭いて「遊んでおいで」と言った。
女の子は泣きやんで鬼ごっこに戻っていった。

(あれ?水で洗わないんだ…)

「ねえ、ケガしてる人多くない?」
「腕に切り傷のある者が3名、足に打撲痕が4名、歩行が崩れている者が2名いました」
シリウだった。
急にしゃべりだすのも怖いし、見ていましたので、と言うのも怖い。でもたぶん数字は合ってるんだと思う。

私は母親に声をかけた。
「お子さんの傷、あとでお水で流すんですよね?」
ロドが領主だと添えると母親の顔がこわばった。
「…いえ。あの程度ですので。お水は、飲むものですので…。申し訳ございませんっ!」
逃げるように去っていった。私っていうよりロドの怖さとシリウの顔面エネルギー量で逃げてった気もする。

「ロド。水ってそんなに貴重なの?」
「飲み水には問題ございません。ただ汲みに行くのに往路で20分かかりますので」

そか。水道がないんだよね。そりゃ洗えないか。

でもさ、私はどうせ辞める。
父さんから返事が来たら王都へすぐ帰る。
この町の領主じゃなくなる。
だから関係ない。いやちょっとは可哀相だとは思うけど。自分の方が大事。
…関係ないはず、なんだけど。
さっき見た足の傷を思い出す。
少し化膿してたな。あのまま悪くなったら…どうなるかはだいたいわかる。あの子の傷も化膿したら…うん通院回数結構多くなるかもしれない。

「…。…井戸、掘ればいいじゃん」
「財政の問題がございます。掘っても水が出るかわかりません」
「んじゃここにでっかい水瓶置いて、手洗い用にすれば?家の水は飲み水、ここは手洗い水にしちゃおう」
「その水は誰が運ぶのですか。水運びは子供の家事手伝いで、仕事としては成り立ちません」
「鬼ごっこみたいに、水運びごっこを作って流行らせれば?みんな勝手にやってくれるんじゃない?」
「…お嬢様、それはあまりにも…いや、待て。…なるほど、みんなで」
「…?」
「水瓶を設置し、共同手洗い場とします。水運びは当番制で、毎日数名が運びます。怪我した者、汚れた者はここで洗えるようにします」
「そんなんでいけるの?」
「はい、問題なく運用できると存じます」

…へー。
私はもう帰る予定だから関係ない。
関係ないけど。
さっきの女の子がまた転んだら今度は水で洗えるかもしんないな。

……
…
夜。
私は競技に入る前の陸上選手のように足をトントンさせる。肩と首をグリグリ回す。
「コンコンっ」
「はい」
「ノルナよ、入るね」

――来るわよっ!総員、合体っ!
(はっ!)ノルナA~E隊員の操縦する機体が合体していく。はっはっはっ!これこそが装甲騎兵ガンドム!我が最終兵器ッ!こうなった私は誰にも止められないっ!さあ行くぞっ!(はっ!)
(前方からビーム到来!避けて!)よしっ!行けるわっ!次(10時の方向から!熱源反応アリっ!回り込んでっ!)よしっ!行けるっ!勝てるっ!勝利は目前よっ!

「…?ふっ」

――っ!?

ドッカァァァァァァンっ!い、今のは微笑み!?微笑みでこの威力…っ!?合体が…っ!みんな大丈夫っ!?
(ザザァ…隊長…っ!ザッ…ノルナB隊員が…っ!ノルナB、隊員が…)
くそうっ!こうなったら撤退しか…っ!できるできないではないわ、するのよ。でないと私だけじゃない。隊員たちの命も…。その時、
(隊長下がって…っ!)ステルス状態だったE隊員の機体が割り込む。
ザシューンっ!斬撃。E隊員の乗った機体が。コックピットが。
(う、うわぁぁぁぁぁぁ…っ!)
(……!)
(隊長…逃げ…。)パリンっ。ヘルメットが粉々に砕ける。
(隊長…私の、二次小…)チュドーン。
(…E隊員ーーっ!)

あんーなーにー…

私はシリウの部屋の扉をそそくさと閉めて自室に籠った。

……
…
私は隅っこの方で口ずさむ。

…たたたんとぅーるるるん、たたたんとぅーるるるん、たたたんとぅーるるるん、たぁたたたどぅどぅどぅどぅ…
あーりぃーふーれ…

QooQ