辺境領主の看護記録4話

2026/10/01

ラノベ

t f B! P L
うわぁ…。舌なめずりしてる。この人完全に家で男飼ってるタイプだ。地下室とかあるんだ。そこに首輪、目隠し、口に謎ボール装着した黒ブリーフ男がたくさんいるんだ。私知ってる。んで熱々おでんとか食べさせて愉悦してるんだ。…ひぃっ。怖…。

「あらぁん?あなたが領主サマぁ?」
「違いま…!」「はいこちらが領主のノルナ様でございます」
ロドを思いきり睨む。
「あなた、やってくれたわねぇ」
「(…へ、え、いったい何を?あ、もしかしてシリウ、元黒ブリーフ、私が盗んだ…。はっ!?)ごめんなさいっ!ごめんなさいっっ!知らなかったものでっ!す、すぐお返ししますっ!ほらシリウぅ?怖がらずに出ておいで~。ご主人様がお待ちですよぉ~…」
「…?」「お嬢様…?」
「頭大丈夫ぅ?この領主サマ」
「ほぉら、シリウぅ…。あなたのだいちゅきなだいちゅきなチャオチュールでちゅよぉ…。だから早く出て…」

……
…
話を聞くと彼女はパパヌーイという薬師。
外傷用の軟膏を専門にしてて、信じられないことに黒ブリーフは飼っていないらしい。
共同手洗い場のせいで患者が減って困っている、と。
「ホント?」
「…化膿が回復傾向にあるものが8名いたかと」
シリウ。怖…。…いつ見てたの。でもんじゃ合ってるんだろう。あと急にしゃべるな。怖い。

「患者が来ないならいい事じゃないの?みんな健康って事だし」
「それじゃあよくないのよぉ」
パパヌーイが古びた本を取り出しとんとんと叩く。
「タダで配る代わりに、使ったあとの様子を教えてもらってるのよぉ。効いたか、いつ効いたか、他に変わったことはなかったか。それが私の報酬」

あ、そっち。お金の話じゃないんだ。確かに研究が進まないのは困るかも。
でも研究か。少しだけ興味あるな。一応元看護師だしねー。
「パパヌーイさん、これ見ていい?」
「どうぞぉ」

ページをパラパラめくる。

――日付。患者番号。軟膏の種類。量。塗った場所。1時間後、翌日、3日後の経過。効いた例、効かなかった例、悪化した例。
え、これ…。ん…?

――(特定の軟膏を組み合わせて使った患者数名が意図していない体調の変化を申告。関係不明。要調査)
――(咳を訴える外傷患者にA・B併用。翌日、咳の頻度減少。3例中2例。要追加観察)
いや、これってもう…

「医療じゃん。パパヌーイさん、これ、すごいよ!」
「あらぁ?当たり前…、…いりょう?なぁにそれ」
「え、あ、医療っていうのは…」
「…お嬢様?そのような知識をどこで?」
「あ、ああっ!えっとなんでもない!」
「…ふぅん。おかしな子ねぇ」

――(服用薬Aを傷薬として投与。4名中3名で咳症状が悪化。うち1名重度。投薬を中止。傷薬のみに戻す)
――(服用薬Bを傷薬として投与。2名中2名で咳症状の改善を確認。引き続き併用)

…ん?
私の中の「この人すごい!」がすっと引いていく。

「…パパヌーイさん。」
「なぁに?」
「患者さんに何の薬か説明してる?」
「もちろんよぉ。傷に使う薬だって」
「…それだけ?」
「そうよぉ」
「…でもこれ、途中から病気のことも書いてあるよね」
「そうなのよぉ、とぉっても面白いでしょう?だからもっと調べたくってぇ」
「患者さん…、そのこと知らないよね?」
「この人も?」
私は日誌を指さした。
「咳が悪化した人」
「もちろんよぉ」
「でもそぉんなの知る必要ないじゃなぁい?だって傷薬で悪くなることもあるんだからぁ。同じじゃなぁい」
「同じじゃないよ」
私は日誌を閉じた。
「この人、それ知ってたら飲まなかったかもしれない」

パパヌーイの笑顔が消える。

「アナタねぇ、全員に一から説明して怖いからやめますって言われてそれで何が分かるのぉ?悠長にしてる間に死ぬ人だっているのよぉ」
「それでも、それでもちゃんと言って。患者さんが断れるようにして。断った人にも傷薬はあげて」
「…ふふっ。アナタにどうこう言われる筋合いはないわぁ。とにかく水瓶の件どうにかして頂戴ねぇ?領主サマ」
「…ちょっと待って!」
パパヌーイはそのまま振り返る事もなく領主邸を出ていった。

……
…
その夜。

「デデーン!」
ああ、シリウか。顔面音がすごいんだよね。近くにいるだけで聞こえるようになった。
「んでさ、ロド。昼の話だけど」
「はい」
「あの水瓶の件――」

「ババーン!」
ああ、シリウか。
「――パパヌーイさんはああ言ってたけど…」
「ううむ」

「ジャキン!」
ああ、シリウか。
「実際撤去っていうのは――」

「シュピっ!」
(あ、シリウか。てか今日もイモかー)もちゃもちゃ。
(最近シリウにちょっとずつ慣れてきたんだよね。美人も3日もすればってやつかなぁ)もちゃもちゃ。
(にしてもシリウがまさか元黒ブリーフの人だったなんて)もちゃもちゃ。

「人は見かけによらないもんだなー」もちゃもちゃ。

「…?」

QooQ