「…で!まだなのっ?」
「はい、まだでございます」
「で!いつなのっ?」
「届いてはいるはずなので、もうしばらくかと」
「で!明日なのっ?」
「それはわかりかねます」
…はあ。昨日もおとといもそのまた前の日もこれ、やった。
手紙。いつになったら父さんからの手紙届くの?もう何週間も経ってるっていうのに。おかしい。本当に即死してるんじゃ…。
「あのさぁ…、ロド。不安なんだ…」
「…お嬢様」
「お父様がその…、お体に障りないか…」
「…お嬢様、そのようなお心遣いを…」
「…うん、だからさ、ロド」
「はい」
「明日なのっ?」
「…わかりかねます」
あー、もう今届け!今扉急に開いて届けっ!ハトでもキジでも何でもいいから届かしてこいっ!さぁっ!こいっ!
――ガチャ
おおぅ…っ!!!?
「お嬢様」
私の、念力がっ!届いた…っ!
でっ?でっ?シリウ。手紙はどこっ!?懐に入ってるんでしょっ?早くっ!
「近隣住民よりパパヌーイ殿が怪しげな薬を販売しているという報告が入りました」
ヌーン。
はっ。あかん。久しぶりに顔ヌーンしてしまった。
…なあんだ。パパヌーイか。
てかこのタイミングで扉開けるなよなー…。シリウ。絶対手紙だと思うじゃん。
「それから…」
おおぅ…っ!!!?
ふところっ?ふところかいっ?
「2階南部屋の扉の立て付けが悪くなっていたので直しておきました」
ヌーン。
そんな報告今いらないの…。世が世なら速攻斬首させられてるよ…。
パパヌーイ、本当に引っ越してきたんだ。
怪しげな薬ってたぶんあれだよね…。病気に効くとか銘打って売っちゃってるんだろうな。
まあ実際効果あるっぽいから売れるかもしんな…
薬、売れる。
パパヌーイ、儲かる。
私、領主。
税収、ガッポリ。
薬、売れる。パパヌーイ、儲かる。私、領主。税収、ガッポリ…!
父さん、手紙、来ない…。でも、
お金、税収、FIRE
お金、税収、FIRE。
お金、税収、FIRE…!
「……お嬢様、お嬢様?」
……
…
パパヌーイの家に来た。
「パパヌーイぃ~…?」
「…?…うぅん?」
「これってぇ~、おいくらで売れたりするのぉ~?」
「お嬢様、目的が違います」
私は手をコネコネしながらパパヌーイにサササッと近づく。
「…アナタ、しゃべり方、どうしちゃったのぉ?」
「ねぇねぇ~?パパヌーイぃ~。おいくらなのぉ~?」
パパヌーイの脇腹を肘でつつく。
「りょ、領主様!またお会いできるなんて…、夢にも。この間は本当にありがとうございましたっ!」
「…にしても、ふふ。…申し訳ございません。パパヌーイさんにそっくりですね」
あ、こないだのお母さんだ。元気そうでよかった。違った。よかったぁ~。
「えぇ?ワタシこんなねっとり喋らないわよぉ」
「そんな事ないわぁ~?でぇでぇ~?お・い・く・ら、なのぉ~?お・し・え・てぇ~?」
「……。…お嬢様。そろそろ…」
ウリウリウリウ…あ。半音低い。これヤバいやつだ。
「…コホン。してパパヌーイ殿。怪しげな薬を販売しているという報告があったのですが」
「お金が入用なのよぉ。森暮らしと違っていろいろ買わないといけないしぃ」
「さようですか。販売自体は問題ありません。ですが…」
「やぁねぇ。ぜぇんぜん怪しくないのよぉ?ただのお薬だものぉ」
「拝見できますか?」
「ちょ、ちょっとぉ、今切らしちゃっててぇ…」
あれ?でも…
「ねえ、パパヌーイ」
「う、うぅん?」
「お母さんに薬を売ってあげてるんだよね」
「えっ?ち、違うのぉ。そんな事してないわぁ?ねぇ、そうよねぇ?」
「…あ、え、あ!は、はい!」
…ん?どうしたんだろ?
……
…
なるほど。
薬を売ると教会に目をつけられて厄介なのか。
「うーん、でも薬ないとお母さん困るよね」
「そうでしょぉ?いっその事教会潰してくれなぁい?領主サマぁ」
「いやそんな権限ないから。ねえ、ロド」
…ん?ロド?
ロドが扉を見る。そして少しだけ声を落とした。
「…パパヌーイ殿。その発言は聞く者によっては異端と取られます」
「あ、わ、私は何も聞いておりません!」
…?ど、どうしたのみんな?お母さんすごく慌ててるし。え、もしかして教会って…
「えっと…教会ってそんなに怖い所、なの?」
「用心した方がよいでしょう」
もう、怖いこと言わないでよ。世界を牛耳る闇組織みたいな感じ急に出してくるのやめてよ。
「…んじゃ売るのやめよっか」
残念だけど仕方ない。怖いもん。教会。
「…ちょっとぉ!私に野垂れ死ねっていうのぉ?」
「だって仕方ないじゃん。普通の傷薬売ってギリギリ生きてってもらうしかない」
パパヌーイがなんかしゃべってるけどこの話終わりっと。あーあ、さらば…私の税収ガッポリ計画。
「この人はどうするわけぇ?薬なくなっちゃうのよぉ?」
あ、そうだ。それは何とかしなきゃ。
「それはパパヌーイが診てあげれば…。ここで調合して塗るだけなら売り物だって証拠も残らないし…たぶん?」
「そんな毎日通えるわけないじゃなぁい。ねぇ?」
「…は、はい」
お母さんが遠慮がちにうつむく。そう、だよね…。どうしよ。
というかロドずーっと横でごにょごにょ言ってる。お母さんの薬をどうするか一緒に考えてほしいんだけどな…。
「…お嬢様。パパヌーイ殿」
「なんとかなるかもしれません」
ん?
「やはりパパヌーイ殿には傷薬を売っていただく事になります」
「…話聞いてたぁ?それだとカツカツなんだってばぁ。それにぃこの人はぁ…」
「いえ、なので2つ、売るのです」
「うぅん?」
「傷薬を2つ売ります。一つずつは普通の傷薬です。しかし組み合わせる事で…」
「…!…ふぅん」
ん?
「組み合わせるかどうかはお客様の判断です。こちらは傷薬を売っているだけですので」
「ふぅん…。うん。うん、うん…。いいわねぇ。とぉってもいいじゃない!」
「な、なるほど…っ!」
ん?え、何の話?え、お母さんも分かってるの?
「ただの傷薬よぉ?」
「は、はい!ただの傷薬です!」
「何個必要かしらぁ?」
「これと、これ、一つずつくださいっ!」
ロドが私の事を一瞬見てくる。
…ん?なに?どゆこと?何の目配せ?
で、何でそんなテンション上がってるのお二人さん。
よく分かんないけど私の税収ガッポリ計画はどうなったの?ロド、ねえ、ロドってば!
――
―
扉の外
杖を突いた老人が扉に耳を寄せていた。
「…薬…売る…二つ…?」
「通報したのに…増えとる…。なんをやっとるんじゃ、あの領主…。こんの罰当たりもんめ…」
そう言って老人は足を引きずりながらその場を離れていった。
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