お嬢様は幼い頃から少々…いや失礼を承知で申し上げるととても変わっておられた。
お坊ちゃまは元気に外で遊ばれているのにノルナ様はずっと部屋にこもりっきり。お変わりはないかと耳をそばだててみると独り言を何時間も延々と言い続けておられる。
またよく旦那様の書斎に忍び込まれていた。何をされているのかと様子を見てみるとその…あまり上品とは言えないような笑みを浮かべたまま夢中になって読書に耽っておられた。
私を含め使用人達の間では、お嬢様には何かしらのご不自由がおありなのではないか、と心配の中心となっていた。
旦那様も奥方様もそんなお嬢様を心配なさってか少しは外で遊ぶようにとよく言葉をかけられていたものだ。
しかし…。
今にして思えば、お嬢様はまこと聡明な方なのではないのか。お嬢様がおっしゃった「医療」という言葉。私は聞いたことがなかった。
病は祈りをもって克服するもの、神の試練とされている。…されているが。このお方はその考えそのものに疑問をお持ちだったのではないのか…?だから書斎にこもって一人研究を…?いや、あのようにお小さくいらっしゃったお嬢様が…それはあまりにも。いやしかし…。
実際、お嬢様が病人に対し一切迷いのない処置を施すさまを私は見た。二度も。まだ社交界にもお披露目されておられないお方がなしえるものなのだろうか。
…共同手洗い場設置の時もそうだ。あの時のお嬢様の物言い。あれは…。
――水運びごっこを作って流行らせれば?みんな勝手にやってくれるんじゃない?
突飛な発言だった。いくら常々おかしなところのあるお嬢様だとしてもあれはとても不自然だった。
私はお嬢様の事をいまだ測り切れていない。もしあの場で私の至った結論をお嬢様が先に述べていたらどうなっていた?私はきちんと検討もせずにお嬢様の考えを否定していたはず…。
お嬢様はすでに共同手洗い場という答えをお持ちだったのではないか。その上であえて私に考える余地をお与えになっていたのではないのか。
…考え過ぎかもしれない。普段は全くもって何も考えておられないようにしか見えないのだ。しかし。うぅむ…。
――
―
あー、宇宙とか行きたいなー。
ん、そういや宇宙に転生した人とかいるのかな。
ま、いるよね。たぶん。異世界に転生するよりもなんか現実的だし。
宇宙に転生したらいきなり死ぬんかな。「ぽっ(やだ私、転生…?)」「…っ!(息がぁぁぁぁ…っ)」「(絶命)ふわ~…」。
「ふふ…」こんなんで笑っちゃった。…ヒマすぎ。
はい、ハンコ、ポンっと。
――
―
48回。
殺せた。
うち12回。
執事が離れていた。
生還確率も高かった。
しかし、こいつには利用価値がある。
利用できるものは何でも利用する。
そして私は――。
とにかく今はまだその時ではない。
――
―
「われわれは宇宙人だっ!」
いやもっとよっノルナ!もっと激しくっ!激しいパッションを右手に宿してっ!喉に当て続けるっ!
「わ゛れ゛わ゛れ゛――」
――
―
「や゛く゛そ゛う゛と゛り゛に゛い゛く゛わ゛よ゛ぅ゛」
あれぇ?喉に手を当てて震えさせると面白い声が出るじゃなぁい?これ大発見じゃなぁい!
――
―
「ぐーぐー」
――
―
「――あなたの可愛いノルナより♪♪」
オレは丁寧にその紙を折りたたむ。娘の生存を知る事のできた大切な手紙を。
「…恨んでいるだろうな」
「……!…あなた」
「…あれは昔から勘のいい子だ。わかっていて私たちを不安がらせないようにこんな手紙を送ってきたのだろう」
「……」
すまない、ノルナ。オレを、この父を許してくれ。…いや許さなくていい。どうか、どうか生きていてくれ。オレは、叶うならもう一度お前をこの手で抱きしめたい――。それだけでいいのだ。オレは血がにじむほどに両の手を握りしめた。
――
―
あーあ、早く手紙返ってこないかなー。父さん何やってるんだろ。
王都帰りたい。
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