「今日も届いておりません」
フゥ…ッ!オゥケイ、イッツオゥライ!イッツソォクレィジィッ!バットウィキャァンッ!
アイムグォーインアウッ!
……
…
畑。
作って三ヶ月になる畑。薬草畑。
見渡す限りの緑。ついに育った私の金づ…じゃなくて薬草たち。
「パパヌーイ殿の畑でございます」というロドの声も脳内で積み上がる金貨の山には届かない。
真顔を保とうとすればするほど口角がゆるゆると緩んでいく。
「HA HAッ! HA HA HA HAッ!」
「こらぁ! 罰当たりもんめがっ! こんなもん育ておってからに!」
Oh…?
突如飛んできた怒声に私の脳内の金貨が一瞬で吹き飛ぶ。
振り返ればそこには顔を真っ赤にしたおじいちゃん、ポゥが杖を振り上げ立っていた。
「あーあ、また始まっちまった。いい加減にしろよなポゥじい、領主サマ達困ってるだろ」
畑の世話をしてくれていた青年が、呆れたように苦笑いしながらおじいちゃんとの間に入ってくれる。
「黙れバカもんがっ!薬草なんぞ神の領域を侵す邪法じゃ!この罰当たりめがっ!」
「…まあまあ、落ち着きなされ、ポゥ」
流木を思わせるような痩身のおじいちゃんが白い法衣をヒラヒラさせてこちらに向かってくる。
…え、あれは!教会の人っ!?まずいっ!焼き払われるっ!
私は咄嗟に薬草畑の前へ飛び出し、必死にゴールキーパー的な姿勢をとる。
アァイム、アァイム ア スゥパァ グォルキィパー。オゥライ。カァモォン?
「あまり根を詰めんでくださいねぇ」
「ああ、神官様見てください、収穫まであと少しなんですよ!」と青年。
「おお、これはよく育っておるねぇ」
…オゥラァイ カァモォン? カァモォ……ん、あれ?神官って教会の人、だよね。怖い人なんじゃ…?
横のおじいちゃんがまた怒鳴り散らす。
「クレスっ!そげなこと神官が言っていいわけなかろうがっ!神をなんだと思っとる…っ!」
「ほっほ…、薬草は薬草じゃ。いいも悪いもないじゃろうて」
「んんん…っ!お前は昔っからそうじゃ!なんでお前みたいなもんが神官を…」
ゴールキーパー姿勢をそっと解く私。その横で青年がやれやれと肩をすくめた。
「あーあ…。神官様とポゥじいはホント昔っから懲りねえよなぁ。こりゃ今年の老人運動会も荒れそ――」
……ん?老人運動…会…?
――ポワポワポワヮヮァン
老人運動会…?
…そうだ。運動会。いっつもビリだったっけ。運動神経なかったからなぁ。私。あれ、でも老人運動会…。なんだっけ。
―ノルナよ
…っ!?誰っ!?誰なのっ!?
―私だ。ノルナよ
…あなたはっ!
―そうだ、ノルナよ。お前が小3の時にこの石ころ家まで蹴って帰れるかな、ってやって2回目の転がしで溝に落とした石だ
…うん、覚えてる。この丸み
―ノルナよ。よく聞け
…はい
―肉
…肉?
……
…
そして当日
「お嬢様」
「…」
「…」
「…なんじゃい」
「…いえ」
「わたしゃノルナじゃないぞい。本当じゃぞい」
「……」
「…パパヌーイ殿」
「どこからどう見たってグランドマァズァーでしょぉ?ねえ領主…ノルばぁ?」
「そうじゃぞい。のうパパヌ…パパばぁや」
ロドとシリウのゴミを見るような視線を後頭部に集めつつ私はパパばぁとエントリーを済ませる。
「お、おい、あれ…」「いや、まあいいんじゃね?」「あ、おねえちゃ…!」「こら、しぃーっ!」(ガヤガヤガヤ)
完璧すぎる。
私は本部席の横に鎮座する優勝賞品――なんかの肉1キロ――を、老眼を装ったギラついた眼光で見つめた。
肉は私の…、
――パパヌーイ「肉は私の…」
ものッ!!!
なん…だと。こいつも肉、狙いだと…?
私はパパばぁを親の仇より鋭くにらみつける。
パパばぁが睨み返してくる。
この死合譲れないッ!!!
(ドドド…ッ)
…ん?
(ドドドドドドド…ッ)
なんだ…?
(ドドドドドド…ッ!)
何のお…
私は思わず目を見張った。
はるか地平の彼方より向かってくる。屈強な男たちの影。それは老人たちの行進だった。
いいや、行進などという生易しいものではなかった。…それは蹂躙。地響きが私を(ザッザッザッ!)、そしてパパばぁを飲み込んで(ザッザッザッザッザッ!)いく。
ぐほぉ…っ!
ぐえっぐ…っ!
バッキーン…。…オゥ マァイ グォッズ。
もみくちゃに囲まれていた。
小麦色の四肢の老人に。
子持ちししゃもの腹くらい膨れてやがる。
どこかで卵の茹だる匂いがした。
この熱気で作られるゆで卵が観客に振舞われているのだろう。
ふと観客席にいたシリウと目が合う。
私はその鉄仮面にサムズアップを刻み付ける。シリウが組んだ腕から小さくサムズアップを返してくる。
オゥライ!アイ ガッ ディィスッ!
「アァァユゥゥオゥケェェィッ!?第一種目はぁっ!?そおうっ!松ぼっくり早飲み競争だぁっ!アァユゥレェディ…?グォーっ!」
「グォーっ!(歓声)」
「誰が勝つと思う?」
「そりゃあ毎年クレスさんがこの種目つえーからなぁ」
「いや去年はポゥもいいとこまで粘ったじゃねぇか」
(う、嘘でしょ…!? 飲むの!? あれを!? 喉に刺さって死ぬでしょ!?)
困惑する私を余所にししゃもじいちゃんたちは「おおーっ!」と雄たけびをあげテーブルに盛られた拳ほどもある松ぼっくりに群がる。そして我先にと口に運び始める。
嘘だ…。狂ってる。
私は茫然とした目で横を見る。そこではクレスが涼しい顔で両手に松ぼっくりを持ち、ポゥが今まさに松ぼっくりを飲み込んだあと勝ち誇った顔でクレスを睨みつけていた。
「ウオオーっ!」
会場から大歓声が上がる。
「おおっと…っ!?ここで審議の旗だぁ!」
「…うんうん、うんうん。あーっとコレはいけないっ!ケビン選手なんと松ぼっくりをヘタの方から飲み込んでしまっていたぁっ!残念ながらここで失格ぅっ!」
…
「現在1位はクレスせーんしゅっ!13個と少し調子が悪かったものの本大会も大本命の一人かぁ!続く2位のポゥ選手っ!11個とまずまずの滑り出しだぁ!その他選手も虎視眈々と逆転を狙っているぞぉっ!」
「…ん?ああ…、初出場のノルばぁ選手はなんと0個ぉ…。もう少し頑張ってほしかったところですねぇー!」
「ブーブー(ブーイング)」「若いもんがぁ」「出直してこぉい!」「お嬢様…。幻滅いたしました」「ふん…」
ぐぅ…っ!くそう…っ!次は……次は必ず…ッ!
「そしてパパばぁ選手は2個っ!初出場にしては健闘したといってもいいんじゃないでしょうかぁ!」
「ぱち…ぱち…(まばらな拍手)」
へ…!?パ、パパヌーイ…ウソ…でしょ…!?飲んだの…あなた……
真っ青な顔で今にもゴートゥーヘヴンしそうなパパばぁがふらっふらの状態でギリギリ立っていた。なぜか天高く拳をつきだしている。
「うぉっほん…さぁっ!続いて第二種目は眼球フレンチキッス相撲っ!昨年無類の強さを誇ったケビン選手が今回失格となっているのがどう影響するかぁっ!?アァユゥレェディ…?グォーっ!」
「ゴォーっ!」(会場が揺れる)
(い、一体何が始まるというのッ!?)
……
…
日が傾いていた。入れ歯フライング射撃、湯たんぽ棒高跳び、競歩。
様々な競技が続いた。
そして気づけばほとんどのししゃもじいちゃんは家に帰っていった。
腰痛、痛風、肩こり、四十肩、その他なんやかんやの持病で帰っていった。特に競歩が地味という理由でだいたい帰っていった。
「さあっ!ついに大会も大詰め!最終種目は二人三脚ッ!現在1位のクレス選手と2位のポゥ選手のクレス・ポゥ組、そして繰り上げで3位のパパばぁ選手と現在最下位のノルばぁ選手がタッグを組むパパばぁ・ノルばぁ組ィィっ!最初にゴールした組が優勝だぁっっっ!」
「オオーっ!(歓声)」
ぺっぺっ!私は両手に唾をつける。
「よぉーしっ!パパばぁ、行くぞいっ!そんでもって肉を……パパばぁ?」
そこにはしぼくれてカスッカスの茄子が落ちていた。
「パ、パパヌーイ…っ!」
茄子の顔をひっぱたく。なんとなしに3つ点が並んでるからここが顔だろう。
パシパシっ!
「……」
パシパシパシパシっ!
「……」
「…死んでる」
ジィーザァァス?
「両組準備はできたかぁぁぁっ!?」
くそうっ…!もうっ…!茄子と右足をとにかくぐちゃぐちゃっとヒモでくくる。
肉っ!夕日でてっかてかに輝いてやがる…ッ!
「レェェェディィィィ…?グォォォォーーっっっっっ!!!!!」
「グォォーーっっっっっ!!」「パァッサァァァァァンッ!(観客の鼓膜が破れる音)」
「がんばれぇーーっ!おねえちゃぁぁーんっ!!」
「りょうしゅさまぁぁぁぁっ!がんばってぇぇぇぇっ!!!」
「ポゥじいあと少しだァァァ!きばれよォォォォッ!しんかんさまもやっちまェェェェっ!」
「お嬢様…立派になられた(目をぬぐう)」
「ふん…(サムズアップ)」
「ワァァァァーーーーーーっ!!ワァァァァーーーーーーっ!!」
私は茄子を抱えて前を向く。
「クレスお前もっと離れぇ…。加齢臭が好かんっ」
「ほっほ、しょうがないじゃろが、鼻でもつまんどきせぇ」
は、速い…っ!
何だあの統率の取れた二人三脚は。もはや一つ。
「んぬぬぬぬぅぅぅぅ…っっ!!」
ダメだ…っ!前の二人がもうゴマ粒位に見える…。追い、つけ、ない…っ。いっそこの邪魔な茄子をここで捨ててでも…。
――ポワポワポワヮヮァン
―肉
…肉
―肉だ
…肉よ
―ノルナ
…誰っ!?
―私だ。ノルナよ
…あなたはっ!
―そうだ、ノルナよ。お前が小3の時にこの石ころ家まで蹴って帰れるかな、ってやって2回目の転がしで溝に落とした石が当たって死んだカメムシだ
…うん、覚えてる。この臭さ
―ノルナよ。よく聞け
…はい
―この二機の性能は互角。だが、ジェフティがアヌビスと並ぶためには一つ欠けているものがある。スペックを最大限に引き出すためのプログラムだ。…勝てるかどうかは、ランナー次第だ
…互角?
……
…
「うごけェェェェェッッッッッッ!!!!!!」
カツゥゥゥゥン……!
茄子の穴という穴から黄金色の光が漏れだすッ。見えるっ!千手観音のふくよかな顔がッ!スイカを盗んだくらいならワンパンで許してくれそうな慈悲深い顔がッ!
「はいだらぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!!」
……
…
「がんばれー。」
「おねえちゃん、がんばれー。」
「あともうちょっとだぞー。」
「最後まで自分の足でゴールを目指します。皆さんどうか温かい応援を!頑張る姿はみんなが1等賞!あと少し、もう少しっ!がんばれ、がんばれ!」
「パァン!」
「……はい。拍手の中で今ゴールしました!最後までよく頑張りました!」
優勝は今年もクレス・ポゥタッグでした!この後は授与式に――
くそう…。私はそう呟いて二本目の茄子になった。
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